レアストーンズ
宝石雑学教室
天然石と人造石
★天然石と人造石★
十数年前から宝石業界で話題になっている石が有ります。
それは人造のモアッサナイト(SiC 硬度9.5)と呼ばれるダイヤモンド類似石(模造石)で以前は0.3カラット前後の小さなものばかりでしたが最近は1カラット以上のカット石が出回っています。
この石は肉眼で見ただけではカラーグレードがI以下の低品質ダイヤそっくりで、ダイヤモンドテスター(熱慣性=熱伝導性によりダイヤかどうか判別する機械)等ではダイヤと識別できないのです。

さらにルーペで見ても硬度がルビーやサファイアよりも硬い為カットしたてのものはファセットエッジがシャープなのでダイヤと誤認されやすいという厄介な代物なのです。
それで質屋さん等がかなり騙されという話です。

ただルーペで注意して見るとダイヤには無いダブリング(ファセットカットされた透明石のテーブル面から底を見ると稜線が二重に見える現象)が確認できますので鑑別にかけるまでもなくダイヤでないことだけは判ります。
この石は以前に天然石で発見されたものを最新の科学技術で合成に成功し製品化しているとメーカーは言っている様ですが本当のところはよく解りません。
現在USAとロシアで製造されており1カラットのダイヤと同じ大きさにカットされたもので数万円はしている様ですから非常に高価な模造石ということになります。
外見だけならよくご存知のキュービックジルコニア(ZrO
2 硬度7.5~8.5高純度品9)の方がダイヤによく似ていますしかなり安価です。

        
キュービックジルコニア原石とカット石

この他にもダイヤに似せて造られた有名な人造石にはチタン酸ストロンチウム(SrTiO3 硬度6)やGGG(硬度6.5)、YAG(硬度8.5)等が有ります。
これらの人造石は見かけはダイヤに似ているのですが天然のダイヤモンド(金剛石 C 硬度10)とは全く違う異質のものです。
しかも自然界には存在しない人造石ですから合成宝石ではなくクリスタルガラスやプラスチックで造ったものと同じ模造宝石ということになります。
(※自然界に存在しなくても合成したものであれば合成宝石類とする場合も有ります)
又、天然のオーストラリアオパールの底に斑の出ない黒のコモンオパールを人工的に貼り付けたダブレットブラックオパールや色の濃いエメラルドの上に無色のベリルを貼り付けたダブレットエメラルド等は天然の素材を使っていたとしても模造宝石になります。
合成宝石は少し堅苦しい言い方をすると「人工的に育成されたもので天然宝石と同一の化学組成や結晶構造を持っている宝石類」となります。

例えば合成ルビーは天然ルビーと同じ成分(Al2O3)でできており同じ結晶構造をしている人造石ということになります。
ですから赤く着色したキュービックジルコニアやガラスは合成ルビーではありません。

又、多くの方が誤解されているのですがキュービックジルコニアそのものも天然のジルコン(ZrSiO4 硬度7~7.5)とは異質で合成ジルコンではないのです。
合成宝石はルビー以外にもサファイア、ダイヤモンド、エメラルド、アレキサンドライト等という様にトルマリンとガーネットグループ以外の一般宝石は全て造られていると言っても過言ではありません。
そしてこれら合成宝石の大部分は美しさだけを採り上げれば不純物が入りやすい天然の宝石より優れており、価格も大量に造れますから同程度の品質の天然石の10分の1から1万分の1くらいなのです。
それではこの様な合成宝石はいつ頃から又、何の目的で造られるようになったのでしょうか。
合成宝石の歴史は今から120年程前西暦1891年のフランスの化学者ベルヌイによる合成ルビーの発明(実用化は1903年頃)から始まります。

その製法は発明者の名前をとってベルヌイ法と呼ばれ、1907年にサファイア、1930年にスピネル(MgO・Al2O3 硬度8)、1947年にはスターサファイアの合成が始まっています。
そして現在でもこの製法によりこれらの合成宝石が製造されているのです。

ベルヌイ法の特徴は極めて結晶の成長が早い(ルビーの場合数時間で4~500カラットの原石に成長)為に非常に低コストで製造することができる事です。
ですからカットしても1カラット当たり1,000円前後で市販することができる訳です。
又、天然石とは比較にならないほど純粋なものが造れますので昔は合成ルビーが時計等の駆動部分の軸受け、サファイアは蓄音機の針、近年になるとルビーがレーザーの発光源という風に工業用途にも使われてきました。

しかし、宝飾用途となるとこの方法で製造された合成宝石は異常に綺麗という事とカーブ・ライン等の天然石には無い独特の特徴が有りますので簡単に見破られてしまいあまり実用的ではないようです。

蛍光灯下  電灯光下
ベルヌイ法で合成されたカラーチェンジ・サファイアのブール(原石)

  
ベルヌイ法で合成されたピンク・サファイヤ、パパラチア、スピネルのカット石

もう少し天然石に近いものを造ることができる合成法はフラックス法という方法です。
1938年にUSAの化学者チャザムがこれにより世界で初めてエメラルド(Be3Al2(SiO36 硬度7.5~8)の合成に成功しました。
その後チャザムはこの方法で1958年にルビー、1975年にサファイアの合成に成功し実用化しています。
勿論現在でもこの製法でこれらの合成宝石やアレキサンドライト(BeAl
2O4(+Cr) 硬度8.5)も造られています。
フラックス法は高温で粉末にした原料を溶融し結晶させるベルヌイ法とは違い原料を融剤(フラックス)で溶解させ結晶させる方法ですから育成に時間がかかり(ものにより実用程度の大きさに成長させるのに数ヶ月必要)しかも群晶になりあまり大きく成長しません。
従って価格はベルヌイ法合成宝石よりかなり高価になってしまうのです。

しかし、フラックス法合成宝石はカーブ・ラインができたりしませんので鑑別が困難で見た目も天然石と非常によく似ています。

      
フラックス法により合成されたエメラルドの結晶(写真左)
内部に独特のフェザー・インクルージョンが多数確認できる(写真右)


さらに天然石が地下の熱水鉱床で結晶した環境を人工的に再現できる装置を作りその中で結晶を育成させる水熱法という合成法が有ります。
この方法で主に水晶グループそしてエメラルドやルビーが合成されています。

水熱法合成宝石は天然石と結晶する過程がほぼ同じですからかなり似たものが造れ鑑別もより困難になります。
しかし、装置が高価な上に育成速度が極端に遅い等の問題が有り製造コストが高くなってしまいます。
それでこの方法で合成されたルビーは低品質の天然石より高価なことも有るくらいです。

特に無色の水晶の場合はある程度の大きさまでの天然石がそれほど高価なものでは有りませんのでどうしても合成水晶の方が高くなってしまうのです。
勿論これをカットして装飾品に使う事はまず有り得ませんが合成水晶には別に重要な工業用途が有ります。
それは時計や精密測定器、通信機器等に必要な水晶振動子としての用途で、天然石より純粋な合成水晶が必要不可欠なのです。

       
水熱法で合成された水晶の結晶

よく流通している合成宝石の製法は主にベルヌイ法、フラックス法、水熱法の3種類ですが、この他にもアレキサンドライト等が合成されている結晶引上げ法やフローティング・ゾーン法が有ります。
さらにトルコ石やラピス・ラズリまでもが圧縮成形・焼結法という製法で合成されているのです。

但しこの二つの石は天然石がそれほど高価なものではありませんから製造されているというだけで殆ど流通していません。
又、ラピスの方は天然石と構造が違いますので模造石ということになります。
ちなみにダイヤモンドの模造石であるキュービックジルコニアはスカル・メルティング法という独特の方法で製造されています。
そして模造ではなく天然石と同一の化学組成を持った合成ダイヤモンドは超高圧法という方法で製造されています。

1955年にUSAのゼネラル・エレクトリック社が11万気圧、3,500℃という超高圧高温でグラファイト(石墨)を結晶させダイヤに変えることに成功したのです。
ただダイヤといっても黒色の微小結晶で工業用にしか利用できないものでした。
それからなんと15年もの歳月を経て同社が1カラット以上の宝石用ダイヤの合成に成功したのです。

しかしこの頃の合成ダイヤは同程度の品質の天然ダイヤとは比較にならないほど高価で宝石用として製造する意味が全く有りませんでした。
現在でも大粒で高品質なものほどコスト面で天然石より高くなることに変わりがない様ですから、当分の間は宝石業界を混乱させることは無いでしょう。
但しこの事は無色のダイヤに限って言えることで天然石が極端に高価なカラー・ダイヤモンドに関してはどうなるか判りません。
これらの製法で合成された色々な宝石は結晶しているものばかりなのですがオパール(蛋白石 SiO
2・nH2O 硬度5.5~6.5)の様に全く結晶していない非晶質の宝石も勿論合成されているのです。
オパールは非晶質であることが他の宝石と大きく違うところですが、さらにあの多彩で美しい遊色効果(プレー・オブカラー)も独特のものです。
この遊色効果は長い間人工的には作れないだろうと思われていました。

それはこの効果の原因が解らなかった為なのですが、1964年頃オーストラリアの学者が原因を解明したことにより合成できることが解ったのです。
それでフランスのギルソンは1972年に珪酸沈殿法という方法でブラックオパールとホワイトオパールの合成に成功し翌年から商品化したのです。
ブラックオパールの方は殆どハーレクイーンタイプなのですが比較的よく目にします。

ただかなり合成が難しいらしく天然石に似たものは稀で一見して合成と判るものばかりで、しかも結構高価です。
現在では透明なウオーターオパールやメキシコオパールも製造されています。

       
合成ブラックオパールのカット石

それでは何故昔から人々はこれらのような可能な限り天然に近い合成宝石を造ろうとしてきたのでしょうか。
第一には美しい宝石を造りだした大自然への科学者による挑戦で合成に成功することそのものが目的なのです。
自然が造りだしたものを何とか人工的に造りたいという科学者の願望は宝石だけに限ったことではありません。

次に考えられる理由は科学技術の進歩に伴い精密機械等の工業用途としてより高純度な結晶材料が必要不可欠となってきたからです。
天然石の様に不純物が多く含まれていたり均質でないものでは使い物にならないという言わば時代の要請なのです。

第三には非常に残念なことなのですが、人工的に造った安いものを天然石と称して高く売り付けぼろ儲けをたくらむ人がいつの世にもいるからです。
第四には高価な天然石と同等又はそれ以上の美しさを持つ安価な人造宝石を手軽に多くの人にアクセサリーとして楽しんで頂くという目的からです。
勿論その為には人造石であることを明記して販売しなければならないのは当然です。
人造石特に合成宝石に対する考え方や利用の仕方は日本と欧米とではかなりの違いが有ります。

日本では安物まがい物という見方と使い方でしかない様ですが、欧米では高価な天然石のジュエリーを作ってそれは保管しておき、同時にそれとそっくりな合成石でできたレプリカを作り、普段は防犯の為にそのレプリカを身に着けるという利用のされ方が結構多いのです。
いずれにしても人造石にはそれなりの役割が有るということです。
しかしこれは昔から世界的に言えることですが新しいタイプの人造石が開発されるとそれを鑑別する方法が考案され、さらにその鑑別をすり抜けるような又新しい人造石が開発されるという事の繰り返しになっている状態でもあります。
最後にこれは確信を持って言えることなのですが、例えどんなに精巧で安価な人造石が大量に造られ市場に出たとしても、天然石の価値が暴落するようなことは絶対に無く、むしろ天然石の良さや魅力が再認識され尚いっそう価値が上がるだけだということです。