レアストーンズ
宝石雑学教室
宝石のエンハンスメントとトリートメント
★宝石のエンハンスメントとトリートメント★
このごろ宝石コレクターの方等からその石の色が全く処理されていない天然のもの(ナチュラルカラー)なのかどうかを聞かれるということがかなり増えてきました。
これは最近市場に出ている主要宝石(一般宝石)の多くが色を良くする為何らかの処理を施されてしまっており、ナチュラル・ナチュラル(天然の色の天然石)が手に入りにくく高価になってきたからでしょう。
又、数年前から宝石鑑別書に「天然○○○には、一般的にエンハンスメントが行われています」というコメントが記載されるようになりましたから宝石に詳しくない方でも何の事かなという疑問くらいは持たれるようになったのです。
この自然ブームは何も宝石だけに限ったことではなく、他の物でも自然何々とか天然何々という様に特に食品関係等でもてはやされる傾向にあります。
自然物や天然物の良さが再評価されてきて、宝石ならば採掘とカット、研磨以外は余計なことをしないで欲しいということでしょう。
しかし宝石の場合は野菜等とは違い現在でも地球上でどんどんできているというものではありませんから、例え次々に新鉱山が発見されたとしても数に限りが有ることは明らかです。
そして限り有る原石の中でもそのままカットして宝石にできるものはごく僅かしかなく、その他のものは何らかの処理をしなければ宝石と呼べるものにならないのです。
又、タンザナイトの様に発見当初しばらくはあの独特の美しいブルーの原石が採れていたにもかかわらず、最近は暗いグリーン味や褐色味の入った原石が多いという石も有ります。
そのままの状態では宝石としての魅力に欠けますので止むを得ず処理により色を良くしているのです。
元々少ない未処理の宝石をブームだからという理由だけで需要が増えだすとさらに手に入り難くなり価格も跳ね上がってしまいますから問題です。
しかし、どのような宝石がどのような処理をされているかとなるとかなり石に詳しい人でないとあまりご存知無い様です。
宝石の処理全てが行ってはならない事のように思われると困りますので、簡単にお話させて頂きます。宝石の処理にはエンハンスメントとトリートメントの二つが有ります。

エンハンスメントはその宝石が元々持っている潜在的な美しさを人的手段で引き出してやろうとする改良のことです。
もしかしたら自然でも条件次第でそうなっていたかも知れないという程度の改良でしかもその効果が永続するものでなくてはなりません。
これの最も一般的で古くから行われているのが加熱処理(ヒート・エンハンスメント)です。

加熱処理されている石の代表的なものにルビーとサファイヤがあります。
特にブルーサファイアは産地によって違うのですが、自然のままでも明るくて濃い透明なブルーの原石は極端に少なく、グレー味を帯びて濁ったものやグリーン味を帯び暗いものが多くそのままではカットしても魅力的な宝石にはなり得ません。
それでこの手の石を加熱処理することにより濁りを取り透明な濃いブルーにしたり、グリーン味を抜きブルーだけに変えたりするのです。
勿論自然のままで美しいブルーの石と比較すると明るさやテリ等が若干落ちたりカラーバンド(色帯=縞状の色の帯び)が強くなったりしているものが多いのですが止むを得ません。
ルビーとサファイア以外で一般的に加熱処理が行われている宝石には先に出てきましたタンザナイトやアクアマリン、ピンクトパーズ(インペリアルトパーズ)、トルマリン(主にグリーンとブルー)等が有ります。
エンハンスメントにはこの加熱処理の他に少し意外ですが一部の含浸処理も含まれます。
それは翡翠(ジェダイト)の光沢を良くする為のワックス等による含浸とエメラルドの透明度を上げる為の無色のオイルや樹脂等の含浸による改良です。
但し、このエメラルドの含浸処理にグリーン等の着色オイルや樹脂を使用するともうこれはエンハンスメントではなくトリートメントになってしまうのです。

現在宝石の処理はエンハンスメント(改良)とトリートメントの二つに分けられているのですが、以前は宝石の処理は全てトリートメントと称されていました。
ですからエンハンスメントはトリートメントの中から生まれた考え方だと言えます。
それで現在称されているトリートメントとは、その宝石が元々持っている性質とは関係なく化学的や物理的な手段で人工的に色等の外観を変化させてしまうことです。

エンハンスメントのように自然でもそうなっていたかも知れないという程度の改良ではなくて、自然ではまず有り得ない処理でこれは改変ということになってしまうのです。
そしてエンハンスメントとは違いその宝石の本来の価値と見かけ上の価値にかなり大きな差が出ることや効果が永続し難いという問題が有るのです。
宝石鑑別書にはトリートメントされた石の場合だけに「天然〇〇〇(処理石)」と表記され、さらに「〇〇〇による〇〇〇の改変を認む」とか「改変を目的とした〇〇〇を認む」というようなコメントが記載されます。
又、ナチュラルカラーやエンハンスメントされた石と区別する為、宝石名の前にトリーテッドを付けてトリーテッド〇〇〇と表現される場合も有ります。
トリートメントには放射線照射、着色、コーティング等が有り又、エンハンスメントと同じように加熱、含浸も有ります。
それらの内一番多く目にすることができるのが放射線照射をした石です。

これの代表格がブルートパーズとレッドトルマリン(ルベライト)です。
ブルートパーズ(Fタイプ)はナチュラルカラーのものも僅かに採れるのですが通常色が極端に薄くとてもブルーと呼べるほどのものではありません。

殆どが無色のホワイトトパーズ又はブラウントパーズで産出します。
そこでこのタイプの石を一旦黒くなってしまうまで放射線を照射し、その後で熱処理により脱色してあの鮮やかなブルーのトパーズに変えてしまうのです。
もしナチュラルカラーでこの改変された石と同じくらい濃くて鮮やかな色のブルートパーズが有ったとすれば価格は十倍以上になるでしょう。
昔は世界で唯一日本の滋賀県で非常に上質のナチュラルカラーのブルートパーズが採れていたのですが、残念な事に完全に採り尽くされ現在は全く産出していません。
現在ブラジルで色は淡いのですが透明感が良く美しいナチュラル・ブルーのトパーズが少量産出しており日本に入ってくることが有ります。

今店頭で見掛けるカット石は殆どトリーテッド・ブルートパーズです。
又、ルベライトも真っ赤でどぎつく感じるくらい鮮やかなものは放射線照射されている可能性が高いのです。
その他に最近放射線による色の改変がよく見られるものにカラーダイヤモンドが有ります。
色としてはブルー、グリーン、イエローが多いのですが、見ただけで色が不自然に濃くて鮮やかなのですぐに判ってしまいます。
さらに価格がナチュラルカラーのものと比べると十分の一(ブルーは百分の一)以下と非常に安価ですし、店頭に展示する場合も「トリーテッド・ダイヤ」とか「処理ダイヤ」という様に明記することが常識になっていますので買う場合は承知の上ということになります。
トリートメントの中でかなり古くから行われてきたものに着色(染色を含む)と含浸が有ります。
着色が現在でも頻繁に行われているのが翡翠(ジェダイト)とメノウ類です。

翡翠は繊維質でメノウは潜晶質ですから染め易いのです。
翡翠の着色は主にタイや香港で行われており、ミャンマー産の白っぽくて宝石にはできない原石を緑色等の染料に浸し乾燥させた後オーブンの様なもので焼き付けるというものです。
方法はいまだに原始的ですが最近は染料がかなり良くなっていますので昔のように拡大検査やフィルター反応だけでは染色を簡単に見破れなくなっています。
鑑別機関に鑑別してもらう場合も特殊検査を行いますので料金が通常より高くなります。
又、翡翠やメノウは店頭に展示する場合でも殆ど染色の有無を表示しませんので注意が必要です。
含浸処理が当り前のように行われている石がトルコ石です。
トルコ石はナチュラルのままでカットしたりジュエリーにするには比較的弱い石ですから殆どの場合強度を増す為に無色の樹脂が含浸されています。

但しこの石に限っては処理石と未処理石の価格差がそれほど有りません。
含浸で問題なのはエメラルドです。
エンハンスメントのところでお話させて頂きましたが透明度を上げるための無色のオイルや樹脂等の含浸は改良になるのですが、グリーンの着色オイルや樹脂の含浸はトリートメントになります。これはやはりそのエメラルドが未処理の場合の価値と色を改変された場合の見かけ上の価値の差が極端に大きくなるということと、改変されたものは退色の可能性が有るからです。
加熱処理は殆どの石の場合エンハンスメントになるのですがブルージルコンと無色のホワイトジルコンに限ってはトリートメントとされます。
やはりこれも退色や変色の為です。
ブルージルコンもブルートパーズと同じでナチュラルカラーのものも有るのですがはっきりとしたブルーの石は稀有です。

そこで多く産出するブラウン系の原石を加熱処理しあの目の覚めるような鮮やかなブルー(スターライト)や完全無色のホワイトジルコンにするのです。
その他トリートメントには少し変わっていますがオパールの処理が有ります。
オーストラリアのアンダムーカという所で採れる多孔質のホワイトオパールを砂糖溶液の中に入れ浸透した砂糖を硫酸により炭化させてブラックオパールに変えるというものです。

黒地にピンファイヤーと呼ばれる細かい遊色が有り綺麗ですが見るからに不自然でオパールをよく知っておられる方ならすぐに処理石であることが判ります。
オパールはメキシコ産の石でも同じ処理をしたり黒色の樹脂を含浸させたりしてトリーテッド・ブラックオパールにしていることが有ります。
どちらにしても耐久性にかなり問題が有ります。
勿論、石のトリートメントは良い利用方法もあります。
それは極端に品質が悪く利用価値が無いので捨ててしまっていたような原石をトリートメントにより見た目や強度を良くして安価なアクセサリー等の用途に使用できるようにするということです。

この様に処理にはエンハンスメントとトリートメントが有り又、実際に多くの宝石が処理されているのですが、どういう訳かこの二つの内どちらかの処理をした石と未処理石の価値観が日本と欧米等ではかなり違うのです。
これは私見で概念的なものですが日本では未処理石を100としてエンハンスメントされた石は90くらいの価値が有りトリーテッドストーンは20くらいと非常に評価が低いのです。
逆に欧米等ではエンハンスメントの評価が日本より低くトリーテッドストーンの評価がそれほど低くないのです。どちらにしても処理石には変わりないという考え方なのでしょう。

しかし日本でのこの感覚は最近になって徐々にですが欧米的になりつつあります。
それでは何故本来宝石が持っている自然物としての魅力を犠牲にしてまで処理をするのでしょうか。
これは石の愛好家には考えられない事かも知れませんが、一般的には宝石の魅力の一つである見た目の美しさだけが過剰に評価されてきたからです。

勿論美しさは宝石の重要な要素なのですが宝石の魅力はそれだけではありません。
そして最近はこの事を知っておられる方が増えてきた様でナチュラル・ナチュラルを求める方が多くなってきたのです。