| 真珠と共に六月の誕生石になっているムーンストーンは多くの
方がご存知で極一般的な宝石です。
数年前に一時期パワーストー ンとして比較的安価な石ということも手伝ってブームになった事
が有ります。代表的な乳白色半透明の石は本当に春から初夏にか
けて夜空に浮かぶ月に良く似た雰囲気を持っておりムーンストーンとは上手く付けた宝石名だと感心します。
ムーンストーンは長石(フェルドスパー)という鉱物グループの内の一種で、その仲間には比較的良く知られているサンストーン、アマゾナイト、ラブラドーライトが有ります。しかし、長石グループに入る鉱物はこれら4種類の他にも色々有り意外に幅が広く複雑なのです。
ムーンストーンとその仲間の石の話となるとまず長石グループとはどのようなものなのかということから始めなければならない訳ですがこれがかなりややこしい話なのです。
長石は成分の構成でまず4種類に分かれています。
一つはカリウムが成分としてできているカリ長石(KAlSiO8)です。
二つ目はナトリウムのソーダ長石(NaAlSi3O8)。
三つ目はカルシウムのカルシウム長石(CaAl2Si3O8)です。
そしてもう一つバリウムのバリウム長石というものがあるのですが、この長石は宝石用にはなりませんので除外します。
カリ長石は結晶系の違いでオーソクレース(正長石 KAlSi3O8 硬度6〜6.5)とマイクロクリン(微斜長石 KAlSi3O8 硬度6〜6.5)に分かれています。
ソーダ長石はアルバイト(曹長石)、カルシウム長石はアノーサイト(灰長石)なのですが、この二つの長石は互いに任意の割合で混じり合い別にプラジオクレース(斜長石)というシリーズを形成します。
この様に類似の化学成分と内部構造を持った2種類以上の鉱物が混じり合って別の鉱物をつくることを固溶体というのですが、このことが長石を複雑にしているのです。
さらに固溶体にはならず2種類の長石が薄く交互に層状組織をつくり独特の効果(シラーやラブラドレッセンス)を示している場合も有ります。
それでは具体的に長石グループのどの部分にどのような宝石が有るのでしょうか。
まずカリ長石のオーソクレースですが、これにはそのままオーソクレースという石が有ります。一般的に無色から黄色、褐色で透明もしくは半透明の石ですが、鮮やかな黄色で透明なイエロー・オーソクレースは宝石としての風格をそなえています。
高品質なものの産地はマダガスカルが有名ですが最近は色の濃いものが少なくなっている様です。さらにオーソクレースの変種になるのですがサニディンとアデュラリア(氷長石)という石が有ります。
サニディンはドイツ産が有名で他にUSAでも産出する無色から薄茶色の石です。ドイツではややピンク味を感じるペールブラウンの透明石が少量採れこれをカットすると非常にテリの良い魅力的な宝石になります。
アデュラリアはスイスのアドゥーラという山地で採れることから名付けられた石です。無色透明の地にシラーが出て面白い石ですが大きなものが無く産出量も少ないので手に入りにくいのです。これら3種のオーソクレースは長石グループのレアストーンになります。
そして成分的には殆どオーソクレースなのですが、オーソクレースとアルバイトが交互に層状組織をつくっている石がムーンストーン(月長石)です。この層状組織に光が当たると生じる光の干渉と内部の反射に因りムーンストーンの特徴であるシラー(シーン)効果が出るのです。
ムーンストーンの代表的なものは乳白色半透明の石ですが、他にも無色、灰色、オレンジ色、ピンク、イエロー、灰色を帯びたグリーン、透明から半透明と多彩な宝石です。主な産地はスリランカやインド、マダガスカルです。
大体どの石も安価なのですがスリランカで産出し完全な無色透明の地に鮮やかなブルーのシラーが出るブルー・ムーンストーンと呼ばれる石はかなり高価です。
しかしこの石はムーンストーンではなく実は後で出てきますラブラドーライトなのです。
又、ムーンストーンには4条(極稀に6条)のスターが出る石が稀に有りますが、これは勿論レアストーンとして扱われます。
どういう訳か最近は代表的な乳白色半透明の石をあまり見かけなくなってしまいました。
次に同じカリ長石の一つマイクロクリンですがこれの唯一の宝石種がアマゾナイトです。この石は明るいブルーから青緑色、緑色をしており白色の線状の模様が特徴でカットすると綺麗な宝石になります。主な産地はUSA、ブラジル、カナダ等で石の名前は
アマゾン川に由来しているのですが面白い事にこの川の地域では産出が有りません。USAのコロラド州のパイクスピーク周辺地域で採れる石は非常に上質で又、結晶の形も良いことで知られています。
アマゾナイトは比較的有名でご存知の方も多く鉱物標本として簡単に手に入れることができます。ただ日本ではルースとしての人気が無く殆ど流通していません。しかしUSA等では非常に人気の有る宝石の一つなのです。
ここからが長石グループを複雑にしているソーダ長石(曹長石)とカルシウム長石(灰長石)のお話になります。この二つの長石は互いにあらゆる割合(0〜100%)で混ざり合う固溶体をつくるのですが、この固溶体全てをプラジオクレース(斜長石)というシリーズ名で呼びます。
そしてプラジオクレースはその成分割合により下記の表のように6種に分けられています。
| プラジオクレース |
曹長石分(%) 灰長石分(%) |
アルバイト(曹長石)
オリゴクレース(灰曹長石)
アンデジン(中性長石)
ラブラドーライト(曹灰長石)
バイトウナイト(亜灰長石)
アノーサイト(灰長石) |
100〜90 0〜10
90〜70 10〜30
70〜50 30〜50
50〜30 50〜70
30〜10 70〜90
10〜0 90〜100
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プラジオクレースの中の90%以上曹長石分でできていて殆ど灰長石分が含まれていない長石がアルバイトです。この石はケニアで無色透明石が採れる程度で通常は白く濁った半透明で宝石用にはなりません。
ただ変種ではムーンストーンによく似た灰色から淡青色のアルバイト・ムーンストーンと呼ばれる石がUSAやカナダで採れます。
そしてこれも変種なのですがペリステライトという石がカナダで採れ、こちらの方は乳白色からクリーム色の地にスカイブルーの閃光が出るという美しい宝石です。
次いで灰長石分の比率がやや多くなったものがオリゴクレースです。オリゴクレースは結晶形を留めている場合は稀で殆どが塊状で産出します。
USAやブラジルで採れる無色透明石をファセットカットすると非常にテリの良い魅力的な宝石になります。
このオリゴクレースに赤茶色のレピドクロサイト(鱗繊石)がインクルージョンとして入ってアベンチュレッセンス(宝石の内包物に光が当たってきらきら輝く効果)が出ている石がサンストーン(日長石)です。月の雰囲気を持つムーンストーン(月長石)に対して太陽の様ですからこの名前になった訳です。サンストーンは比較的有名な宝石でインドやノルウェー、カナダ、USAの各州で採れます。
産出量はそこそこで又価格も普通のムーンストーン程度と安価で結構美しいものなのですが意外に日本ではあまり流通していません。少し紛らわしいのですがUSAのオレゴン州で採れるオレゴン・サンストーンと呼ばれている石は似ているのですがオリゴクレースではなく後で出てきますラブラドーライトなのです。
灰長石分の比率が半分近くまでなったものがアンデジン(アンデシン)です。この石は世界のいたる所で産出するプラジオクレースなのですが宝石にできるものは殆ど有りません。しかし最近コンゴで赤色の透明石が採れ極稀ですが流通している様です。
そして曹長石分と灰長石分の比率が逆転し灰長石分の方が多くなったものがラブラドーライトになる訳です。
ラブラドーライトはメキシコ等で産出する無色から黄色、黄褐色の透明石が本来の姿なのですがむしろこれは稀少石になってしまい、カナダやマダガスカル等で採れラブラドレッセンスを示す石の方が多く産出し一般的です。
ラブラドレッセンスはラブラドーライトが繰り返し双晶し薄い層の層状組織に成った為にそれに当たった光が干渉し黄色から緑色、青色の閃光が出るというこの石独特の効果です。
半透明で暗いグレーの地に閃光が出て美しいのですが、フィンランドで採れるラブラドーライトは特にこのラブラドレッセンスが強く魅力的でスペクトロライトの別名が付けられています。又、マダガスカルでは青色のシラーを示しムーンストーンによく似ていることから紛らわしいのですがブラック・ムーンストーンと呼ばれている石も採れます。
さらに灰長石分が多くなったものがバイトウナイトで殆ど灰長石分だけでできているものがアノーサイトです。この二つのプラジオクレースは白色からグレーで半透明から透明の石なのですが美しいものは稀で宝石として利用できるものはまず有りません。
長石グループのお話は以上なのですが、極一般的な宝石のムーンストーンや鉱物標本としてはよく見かけるアマゾナイト、あまり流通していないのに有名なサンストーンやラブラドーライトがこんなにややこしくて複雑なグループの一員であることが何となく御解り頂けたと思います。
最後になりますがこれら4種類以外の長石はカットして宝石にできる品質を持つものが稀少で全てレアストーンになります。そして長石グループのレアストーンはそれぞれ微妙に違うのですが長石独特の質感と効果を持った魅力的な宝石なのです。
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